1次不等式の基本
ここでは、不等式の基本性質と1次不等式の基本的な取り扱いについてみていく。
不等号の意味
2つの実数$a$, $b$ の大小関係を表すための記号が不等号である。
不等号には、$\lt$(小なり), $\gt$(大なり)及びこれらと等号がセットになった $\leqq$(小なりイコール), $\geqq$(大なりイコール)が存在する。
2つの実数$a$, $b$ に対し $a\lt b$, $a=b$, $a\gt b$ は、いずれか1つのみが成立する。
つまり、$a\leqq b$ は “$a\lt b$ 又は $a=b$” を意味する($a\lt b$ 且つ $a=b$ はあり得ない)のである。これは、$a=b$ と $a\lt b$ のどちらかが成り立つならば、$a\leqq b$ は正しい不等式であるということである。
不等式の性質
不等式には、以下のような性質がある。実数の性質を考えると当然と言えるが、改めてきちんと整理しておいてほしい。
[1] $\textcolor{limegreen}{a\lt b},\ \textcolor{limegreen}{b\lt c}$ ならば $\textcolor{hotpink}{a\lt c}$
[2] $\textcolor{limegreen}{a\lt b}$ ならば $\textcolor{hotpink}{a+c\lt b+c},\ \textcolor{hotpink}{a-c\lt b-c}$
[3] $\textcolor{limegreen}{a\lt b},\ \textcolor{limegreen}{0\lt c}$ ならば $\textcolor{hotpink}{ac\lt bc},\ \textcolor{hotpink}{\dfrac{a}{c}\lt \dfrac{b}{c}}$
[4] $\textcolor{limegreen}{a\lt b},\ \textcolor{limegreen}{0\gt c}$ ならば $\textcolor{hotpink}{ac\gt bc},\ \textcolor{hotpink}{\dfrac{a}{c}\gt \dfrac{b}{c}}$
[5] $\textcolor{limegreen}{a\lt x\lt b},\ \textcolor{limegreen}{c\lt y\lt d}$ ならば $\textcolor{hotpink}{a+c\lt x+y\lt b+d}$
[2]は、両辺に同じ数字を足したり引いたりしてもよいことを、
[3]は、両辺を同じ正の数で掛けたり割ったりしてもよいことを、
[4]は、両辺を同じ負の数で掛けたり割ったりすると不等号のむきが逆になることを、
[5]は、2つの不等式の各辺を足したり引いたりしてもよいことを、
それぞれ意味している。
実際の式変形(不等式を解く手順)は、中学で学習してきた1次方程式で行うものと基本的に同じである。注意が必要なのは、[4] の負の数で両辺を実数倍すると不等号の向きが変わる点 である。
例題に挑戦しよう
≪問題≫
[1] 以下の条件を満たすとき、式 $5x-2y$ の取りうる値の範囲を求めよ。
(1) $-1\leqq x\lt 4$, $3\lt y\leqq 9$
(2) $x,\ y$ の小数第1位を四捨五入すると、それぞれ $2,\ 7$ になる。
[2] 次の1次不等式を解け。
(1) $5x-2\gt 3x+6$
(2) $3(x+1)\leqq 2(3x-1)+10$
(3) $\dfrac{5x-2}{3}+\dfrac{2x-5}{9}\lt \dfrac{3x+7}{6}$
(4) $2.4x+0.3(2x-5)\geqq 1.5x+1.8$
≪解答・解説≫
[1]※各項の範囲を出し、それらの不等式の和をとるのが基本手順である。
(1)
$-1\leqq x\lt 4$, $3\lt y\leqq 9$より、
$\begin{eqnarray} &\ & \textcolor{palevioletred}{-5\leqq 5x\lt 20},\ \textcolor{cornflowerblue}{6\lt 2y\leqq 18}\\[3pt] &\Leftrightarrow & \textcolor{palevioletred}{-5\leqq 5x\lt 20},\ \textcolor{cornflowerblue}{-18\leqq -2y\lt -6} \end{eqnarray}$
これらの各辺を加えると、
$\textcolor{hotpink}{-5+(-18)\leqq 5x-2y\lt 20+(-6)}$
$\therefore \boldsymbol{-23\leqq 5x-2y\lt 4}$
※ $1\lt 5x-2y\lt 38$ のようにしてしまいやすい。
($x-y$ の最大)=($x$ の最大)-($y$ の最小) であり、
($x-y$ の最大)=($x$ の最大)-($y$ の最大)ではない。
このような考えにくさをなくすため、 $x-y=x+(-y)$ のように和の形で考えるようにしたい。
(2)※ $x,\ y$ の範囲を不等式にできてしまえば、あとは(1)と同じである。
小数第1位を四捨五入して $2$ となる $x$ の範囲は $\textcolor{palevioletred}{1.5\leqq x\lt 2.5}$
小数第1位を四捨五入して $7$ となる $y$ の範囲は $\textcolor{cornflowerblue}{6.5\leqq y\lt 7.5}$
よって、
$\begin{eqnarray} &\ & \textcolor{palevioletred}{7.5\leqq 5x\lt 12.5},\ \textcolor{cornflowerblue}{13\leqq 2y\lt 15}\\[3pt] &\Leftrightarrow & \textcolor{palevioletred}{7.5\leqq 5x\lt 12.5},\ \textcolor{cornflowerblue}{-15\lt -2y\leqq -13} \end{eqnarray}$
これらの各辺を加えると、
$\textcolor{hotpink}{7.5+(-15)\lt 5x-2y\lt 12.5+(-13)}$
$\therefore \boldsymbol{-7.5\lt 5x-2y\lt -0.5}$
※四捨五入したときの範囲の上限を $x\leqq 2.4$ としてしまうミスが頻発する。小数第1位を四捨五入して $2$ となる $x$ には $2.4\dot{9}$ まで含まれる。結局、$x$ の上限は $2.5$ 未満つまり$x\lt 2.5$ となる。
※ $a\leqq x$ 且つ $b\lt y$ のとき、$a+b=x+y$ となることはない。このため、$a+b\lt x+y$ となることに注意してほしい。
[2]
(1)
$\begin{eqnarray} 5x-2&\gt&3x+6\\[3pt] 5x-3x&\gt&6+2\\[3pt] 2x&\gt&8\\[3pt] \boldsymbol{x}&\boldsymbol{\gt}&\boldsymbol{4} \end{eqnarray} $
(2)※負の数で両辺を割るときの不等号反転に気を付ける。
$\begin{eqnarray} 3(x+1)&\leqq&2(3x-1)+10\\[3pt] 3x+3&\leqq&6x-2+10\\[3pt] 3x-6x&\leqq&8-3\\[3pt] -3x&\leqq&5\\[3pt] \boldsymbol{x}&\boldsymbol{\geqq}&\boldsymbol{-\dfrac{5}{3}} \end{eqnarray} $
(3)※分数の計算は手間を要しがちである。まず分数を処理してしまう方がミスをしにくい。
$\begin{eqnarray} \dfrac{5x-2}{3}+\dfrac{2x-5}{9}&\lt&\dfrac{3x+7}{6}\\[3pt] 6(5x-2)+2(2x-5)&\lt&3(3x+7)\\[3pt] 30x-12+4x-10&\lt&9x+21\\[3pt] 30x+4x-9x&\lt&21+12+10\\[3pt] 25x&\lt&43\\[3pt] \boldsymbol{x}&\boldsymbol{\lt}&\boldsymbol{\dfrac{43}{25}} \end{eqnarray} $
(4)※小数の計算は、分数以上に手間がかかる。必ず初めに小数を処理してしまう。2行目を飛ばして進めることができるように練習を積みたい。
$\begin{eqnarray} 2.4x+0.3(2x-5)&\geqq&1.5x+1.8\\[3pt] \textcolor{limegreen}{24x+3(2x-5)}&\textcolor{limegreen}{\geqq}&\textcolor{limegreen}{15x+18}\\[3pt] 8x+2x-5&\geqq&5x+6\\[3pt] 8x+2x-5x&\geqq&6+5\\[3pt] 5x&\geqq&11\\[3pt] \boldsymbol{x}&\boldsymbol{\geqq}&\boldsymbol{\dfrac{11}{5}} \end{eqnarray} $
コメント