皆さんは、旺文社の「数学 基礎問題精講」をご存じですか?数ある問題精講シリーズの中でも最も有名なのがこの基礎問題精講ではないでしょうか。人気になるだけあって、入試の基礎を確認するのに適して素晴らしい参考書です。ここでは、基礎問題精講とはいったいどういう参考書なのかについてみていきたいと思います。
シリーズ全体の比較や、もっと幅広くおすすめ参考書を紹介している記事も投稿しているので、併せて確認してみてください。
基礎問題精講の概要
問題精講シリーズ(入門、基礎、標準、上級の4段階)の中で易しいほうから2番目のレベルに位置する参考書です。基礎という名前から、誤解をしている人もいるかもしれません。ですが、きちんと仕上げれば、数学を得点源にしない(数学は苦手だから最低限の点数で乗り切りたい)場合、中堅国公立大学やGMARCH、関関同立といった有名な私立大学でも十分対応できるだけの力が身につきます。
注意点は、「解説がさっぱりしている」「コラムのような知識を深堀できる要素がない」「問題数が少ない」の3点です。
逆に言うと、厳選された問題により、「入試レベルに対応する基礎の定着」を簡潔に効率よく進めることができるというメリットでもあります。 本書を一言で表すとすると、「入試頻出の基本パターンを短期間で習得するための参考書」です。
著者・出版社とおすすめ度
〈おすすめ度:★★★☆☆〉
出版社:旺文社
著者:上園信武(うえぞののぶたけ)
2B+ベクトルのみ 齋藤正樹(さいとうまさき)との共著
サイズ:A5判
『基礎問題精講』は、教科書レベルの知識を、入試の基礎レベルへと引き上げるための参考書です。厳選された問題と簡潔でポイントが絞られた解説が特徴といえます。 『入門問題精講』などで、教科書レベルの基礎事項の本質的な理解ができている人が、最低限の問題数で効率よく受験の基礎を固めるのに適しています。入試基礎レベルをしっかりと固めたいが、網羅系参考書を進めるには時間がないという人にはうってつけの1冊です。
基礎問題精講の構成
〔基礎問〕〔精講〕〔解答+参考〕〔ポイント〕〔演習問題〕4つのパートで構成されています。厳選された問題と簡潔な解説により、比較的短時間で入試に必須の基礎をマスターできます。

〔精講〕では問題を解く上での方針や注意点が説明されています。
〔解答・参考〕は、典型的な解法がシンプルに記載されており、ポイントを絞って理解を進めることができます。たまに、応用性の低い解法になっていることがあるので、その点にはやや注意が必要です。
〔ポイント〕では、その問題で抑えるべきポイントが簡潔にまとめられています。
基礎問題精講のページ数・問題数・価格とレベル
無理なく入試基礎を固められる問題数
●数学ⅠA 基礎問題精講
【定価:1,320円】【総ページ数:296ページ】
単元 | 数と式 | 集合と論理 | 2次関数 | 図形の性質 | 図形と計量 | 順列・組合せ | 確率 | データの分析 | 整数の性質 | 合計 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
基礎問 | 20 | 5 | 26 | 14 | 24 | 16 | 18 | 19 | 12 | 154 |
演習問題 | 20 | 5 | 26 | 14 | 24 | 16 | 18 | 19 | 12 | 154 |
総問題数 | 40 | 10 | 52 | 28 | 48 | 32 | 36 | 38 | 24 | 308 |
●数学ⅡB+ベクトル 基礎問題精講
【定価:1,650円】【総ページ数:360ページ】
単元 | 式と証明 | 複素数と方程式 | 図形と式 | 三角関数 | 指数関数と対数関数 | 微分法と積分法 | 数列 | ベクトル | 統計的な推測 | 合計 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
基礎問 | 13 | 17 | 21 | 12 | 17 | 30 | 28 | 30 | 15 | 183 |
演習問題 | 13 | 17 | 21 | 12 | 17 | 30 | 28 | 30 | 15 | 183 |
総問題数 | 26 | 34 | 42 | 24 | 34 | 60 | 56 | 60 | 30 | 366 |
●数学ⅢC 基礎問題精講
【定価:1,650円】【総ページ数:304ページ】
単元 | 式と曲線 | 複素数平面 | いろいろな関数 | 極限 | 微分法 | 積分法 | ベクトル | 合計 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
基礎問 | 12 | 24 | 4 | 16 | 26 | 43 | 11 | 136 |
演習問題 | 12 | 24 | 4 | 16 | 26 | 43 | 0 | 125 |
総問題数 | 24 | 48 | 8 | 32 | 52 | 86 | 11 | 261 |
『基礎問題精講』は、「教科書レベルと入試レベルの橋渡し」を効率よく進めるために厳選された問題がそろっています。多くの私立大学や共通テストで必要になる解法パターンを効率よく学ぶことができます。ただし、問題が厳選されているというのはいいかえると演習量が稼ぎにくいという事でもあります。本書の内容を一通りマスターできたら、他の演習書を使って確実に定着させることを目指すべきです。
大学入試に必須の入試基礎レベルへの知識を定着させる

『基礎問題精講』は、あくまでも「大学入試の基礎レベル」を習得していくための参考書です。基礎問、演習問題ともに、大学入試では必須の基本レベルのものがそろっています。教科書では取り扱いは多くないが入試では頻出という目線でテーマ構成されており、入試対策の入り口としての効率性が高められています。
注意点は、問題が厳選されているというのは、裏を返すと網羅性が低いということです。基礎問だけでは抜けてしまう解法パターン(定石)が出てくるという点は頭に入れておいてください。(とはいえ本書に出てくる内容をまず固めてしまうことが重要なので、焦る必要は全くありませんが)
また、数学ⅠAに関しては到達レベルがやや低めです。基礎問題精講だけで入試に臨もうと考えている方はこのことにも注意が必要です。
『基礎問題精講』の効果的な使い方
『基礎問題精講』は、「入試に頻出で典型的な解法パターン(定石)」を効率よく習得することが目標です。効果的にこの目的を達成するためにおすすめの使い方を紹介します。
1周目の流れ
1周目のポイントはインプットを丁寧に行うことです。必要に応じて『入門問題精講』へ立ち返りつつ、確実に知識を増やしてください。
- 基礎問を解く
まずは、何も見ずに基礎問が解けるかチャレンジしましょう。
解けたら〇(復習しなくても大丈夫の意味の印)をつけてください。このとき、精講や解答、参考、ポイントには必ず目を通しましょう。思わぬ発見などで、視野が広がることもあります。このチェックは必ず行うようにしてください。
解き方がわからないという場合には×(要復習の意味の印)をすぐにつけ、精講の部分を確認しましょう。同時に、億劫がらずに『入門問題精講』などの教科書内容を深く解説している参考書に立ち返ることも重要です。これらで考えるためのポイントを確認したうえで、改めて基礎問に挑戦してみてください。解答を確認する際には、解けても解けなくても改めて精講をしっかり読むことも忘れないようにしましょう。
1周目は、新しい解き方や考え方をみにつけるタイミングです。知識がない状態で長い時間をかけて考えるのは効率がよくありません。自力で考えるのは、3~5分程度に抑えるようにしてください。 - 演習問題を解く
基礎問で習得した解法を実践できるかを確認します。基礎問で、きちんと知識をインプットできていれば、基礎問は解けなくても演習問題は解けるはずです。
基礎問と同じように解けたら〇を、そうでなければ×をつけましょう。基礎問には×が付いたが演習問題には〇が付くということも多いはずです。そういった問題については、2周目では基礎問だけやればよいので、復習(周回)の効率も高まります。
1周目では解ける問題のほうが少ないと思います。これは誰でも(東大合格者であっても)同じなので、気にする必要はありません。そもそも、新しい解き方をみにつけるために勉強しているのですから、初めからは解けないのが当たり前です。
「この問題」を解くための知識は、単なる丸暗記です。これではほかの問題には応用できず、貴重な記憶領域の無駄遣いです。(入試には全く同じ問題は絶対出ませんから。)一つの問題を通して、応用性の高い知識を見つけ出すことは簡単ではありませんが、自分なりに「このタイプの問題はこう解けばいいのでは?」という攻略方法を探る習慣をみにつけましょう。
2周目以降の流れ
- 前回の周回のときに×のついた基礎問、演習問題を解く
1周目のときと同様に、基礎問→演習問題の順に解き進めてください。
前の周回時に、〇のついている問題はサッと確認するだけ(頭の中で解答を再現する)で十分です。3周目以降は〇が2つついているものは完全に飛ばしてもらって構いません。 - 演習量を確保する
7~8割の基礎問+演習問題に解答できるようになったら、同レベル帯の問題集で実際に使えるか確認してみましょう。何を使うべきかについては、人それぞれですが『文系の数学-重要事項完全習得編-』などがおすすめです。このときには、ある程度時間も意識して解答するようにしましょう。(入試本番は時間無制限ではないのでその意識付けですね。)
『基礎問題精講』を進める目的は、入試で必要になる基本解法パターンの習得です。入試で初見の問題に対応できるかどうかは、「このタイプの問題が出たらこう解いたらいい」と、自分なりの攻略法を組み合わせることができるかどうかで決まります。そのための第1段階が、基本的な問題で「なぜそう解き進めるのか」を説明できることです。答えが合うこと以上に、解法がきちんと説明できることを意識するようにしましょう。
『基礎問題精講』はどんな人におすすめ?
『基礎問題精講』は、いわゆる網羅系参考書と比べると、より厳選された問題で重要な解法パターンを習得できるようになっています。そのため、多くの人におすすめできる参考書ですが、かっして万人に合うという事ではありません。
ここでは、『基礎問題精講』がオススメの人と、そうでない人についてみていきます。
基礎問題精講がおすすめの人
日東駒専・産近甲龍レベルの私立大志望の人
このレベルの人がやるべきことは、いかに頻出の解法パターン(定石)を確実に使いこなせるようにするかです。こういわれると、チャート式などの網羅系参考書のほうがよさそうに感じたかもしれませんが、『基礎問題精講』のほうが圧倒的にオススメです。
いわゆる網羅系参考書は、その網羅性の高さから、非常に分厚く使用者の心を折りに来るという特性を持っています。たとえ心が折れなかったとしても、問題数の多さから完成させるのに、数百時間という勉強時間が必要です。そして、網羅性が高い=手に入る武器が多くなることで、このレベルの大学で必要とされるレベルの知識を超える部分が増えてしまいます。
これらの理由により、このレベルの大学を志望校とする人は、本書をがっちり完成させることが効果的です。
地方国公立大学やGMARCH、関関同立合格の最低限を固めたい人
国公立大学や上位の私立大学を志望している人の中で、数学が苦手と感じている人にもおすすめです。
数学が苦手と感じている人は、ほぼ確実に教科書レベルが固まっていません。まず、『入門問題精講』などの教科書レベルの理解を固められる参考書に立ち返ることを考えてください。
教科書レベルが固まったら、本書で『入試数学で最低限知っていないといけない解法(定石)』をマスターしていきましょう。 不用意に網羅系の参考書に手を出してしまうと、高得点を狙うべき他科目の勉強時間を圧迫してしまいます。必要最低限の問題数でコンパクトにまとまった本書を活用することで、他の科目の勉強時間を十分確保しつつ、合格に必要な最低限の数学力を定着させられます。
勉強を始めるのが遅れてしまい、短時間で仕上げる必要がある人
教科書の内容に不安がないことが前提です。もし、教科書内容に不安がある場合は、まず『入門問題精講』などで教科書内容を固めてしまいましょう。
『基礎問題精講』は極限まで問題が厳選されており、解説も非常に簡潔です。そのため、入試基礎レベルを短時間で固めていけます。本書の内容がマスターできたら、状況に応じて、過去問、標準問題精講、大学への数学 1対1対応の演習などに進んでください。
これらを進めていく中で、「ここは難しいな」と感じる部分も出てくると思います。基礎問題精講では穴があるのはどうしても防ぎきれません。 チャート式やNEW ACTIONシリーズ などの網羅系参考書は必ず用意しておき、いつでも辞書的に使えるようにしておきましょう。
おすすめでない人
『基礎問題精講』の長所は、極限まで厳選された問題で短期間に入試に必要な基礎知識を習得できるという事です。
しかしこの強みは、裏返すと
- 問題演習量が不足し、定着度が低くなりやすい
- 網羅性の不十分さから、より上位の大学を目指すために知っておくべき解法パターンに漏れが出る
という弱点でもあります。
そのため、
- 難関大学を目指したい
- 受験までにまだ十分な時間的余裕がある
という人にはあまりお勧めとは言えません。
もちろん『基礎問題精講』も有効に役立てられますが、チャート式やNEW ACTIONシリーズのような網羅系参考書に取り組み、より網羅性を高めて基礎を固めるべきです。
青チャートやNEW ACTION LEGEND を仕上げたうえで、標準問題精講や大学への数学 1対1対応の演習につなぐほうが結果につながります。
『基礎問題精講』の後にやるべき参考書
ここでは、本書が仕上がった後に何を進めていくべきかを志望校別に紹介します。 本来、一人一人の状況で全く変わってしまう参考書の選び方ですが、これまでの経験から「失敗しにくい一例」として参考書学習のルートをいくつか紹介していきます。よければ参考にしてください。
理系向け:志望校レベル別おすすめ参考書ルート
日東駒専・産近甲龍レベルの私立大志望の人
このレベルの人は、徹底した基礎力強化が有効です。入試基礎を固めることに集中し、余裕があれば入試標準レベルに少し触れてみるといいですね。
基礎問題精講→文系の数学-重要事項完全習得編-+数学Ⅲ-重要事項完全習得編-+合格る(うかる)計算
基礎が固まり、計算に不安がなくなったらあとは過去問で仕上げましょう。
GMARCH・関関同立・地方国公立大学志望の人
GMARCHや関関同立、地方国公立大学を志望する場合は、標準レベルの問題の演習を積み、解法パターンの理解を深めることが効果的です。標準問題の解法を確実に身につけ、余裕があれば、応用問題に少し触れておくといいですね。
基礎問題精講→文系の数学-重要事項完全習得編-+数学Ⅲ-重要事項完全習得編-+合格る(うかる)計算
これらを通して、計算力と解答力を磨いたらあとは過去問に挑戦です。
難関大学(早慶上理・難関国公立)志望の人
最難関私立や難関国公立を目指す人には、入試標準から応用レベルの問題を徹底して演習することが必要です。そのため、以下のようなルートがおすすめです。
基礎問題精講→標準問題精講→1対1対応の演習→文系数学の良問プラチカ+理系数学の良問プラチカ数学ⅢC→新数学スタンダード演習
『やさしい理系数学』や『重要問題集』を使うのもありです。演習を進める中で時間配分や解答スピードを意識することで、試験本番に強い応用力が身につきます。
最難関大学(東大・京大・東工大 東京科学大)志望の人
最難関大学を目指す場合には、基礎から標準を固めたうえで、さらに高度な応用力をつけることが大切です。最終的には『上級問題精講』や『新数学スタンダード演習』『やさしい理系数学』といったハイレベルな問題集を活用し、対応力をみにつける必要があります。
基礎問題精講→標準問題精講→1対1対応の演習→文系数学の良問プラチカ+理系数学の良問プラチカ数学ⅢC→上級問題精講→入試数学の掌握+ハイレベル理系数学
このルートでいければ、柔軟な解法が求められる東大・京大レベルの問題にも確実に対応できる実力が身につきます。
文系向け:志望校レベル別おすすめ参考書
GMARCH・関関同立・地方国公立志望の人
GMARCHや関関同立、地方国公立を志望する文系の方には、頻出問題を中心に力をつけるのが効果的です。『文系の数学』や『Can Pass』などを使って、よく出題されるパターンや標準的な問題に対応できるようにしましょう。
基礎問題精講→文系の数学-重要事項完全習得編-+文系の数学-実戦力向上編→Can Pass(Can Passは国公立志望のみ)
難関大学(早慶上理・難関国公立)志望の人
標準問題に慣れたうえで、応用問題にも対応する力が必要です。『文系数学の良問プラチカ』や『1対1対応の演習』の文系向け内容を活用し、文系数学の応用問題に慣れることが重要です。入試で頻出のパターンをしっかり押さえ、解答スピードを意識しながら演習することで、得点力を磨きます。
基礎問題精講→標準問題精講→文系数学の良問プラチカor1対1対応の演習
最難関大学(東大・京大・一橋大)志望の人
最難関大学を目指す場合には、基礎から標準を固めたうえで、さらに高度な応用力をつけることが求められます。最終的には『ハイレベル数学完全攻略』といったハイレベルな問題集を活用し、対応力をみにつけられると理想的です。
基礎問題精講→標準問題精講→1対1対応の演習→文系数学の良問プラチカ→ハイレベル数学完全攻略
注意点を押さえて『基礎問題精講』を効果的に活用しよう
基礎問題精講は、素晴らしい参考書であり人気もあります。特に時間的制約が大きい人が入試の基礎を固めていくには非常に効果的です。
- 問題数が限られている
- 解説そのものが簡潔で深い理解につながりにくい
- 標準問題精講とのレベル差がやや大きく、スムーズな接続には別の参考書を挟む必要がある
といった注意点があることさえ忘れなければ、効果的に受験勉強に役立てられます。
どの参考書を使って学習を進めていくかは、本当に一人一人異なります。今回の内容も全員に当てはまるわけではありません。ですが、自分に合う参考書を選ぶ際のヒントにはなるはずです。
今回の記事の内容を踏まえ、自分に合う参考書を見つけてください。
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